吠えるという事

お蘭はかってはめったに吠えない犬だった。
ある迷惑な経験を得て『犬は吠えていいのか』と学習してしまってからは普通の犬のように吠える事もあったけど、それでも吠えない部類にはいるだろう。飼い始めた頃は「ここの家、こんなおっきな犬飼ってたんだ!」とご近所の方に驚かれた事も1度ならずあった。それぐらい寡黙な犬だった。

我が家は袋小路に面している。奥に七軒あるのだが、袋小路なので関係者しか入ってこない。たまに道を間違えて入ってくる人や車もいるのだけど、人気のない静かな環境なのだ。

で、吠える事を体得したお蘭が始めた事はご近所さんが帰宅するとその時の気分もあるのだが吠えてご挨拶をしていた。もちろんそれ以前から家族が帰宅した時はおおはしゃぎでお帰りの吠え声をしていたけど、ご近所さんには軽く吠えるだけである。で、閉口したのは深夜に帰宅するご近所さんにもお帰りと吠えていたらしい。あと犬好きな新聞配達の人と仲良くなっていたらしく、その人が早朝配達に来た時も吠えていたなぁ。普段めったに吠えないけどあの図体である。音量はあるので静かな時間帯に吠えられるのにはほとほと悩まされたものだった。原因がわからない連続吠えももちろんたまにはあったわけで…。そういう時はちょっと肩身が狭かった。

しかし、勧誘やセールスの人達や車が来ても全く無視なんである。こーいう時こそ吠えてくれよと思うのが飼い主としての希望だったのに、お蘭は知らない人は無視、と決めていたらしい。

家の中にいる時に近所の人の車が戻ってきていると車庫入れの間中吠える事もあった。ウルサイので「吠えるな」と言うと口の中に溜めるようにして「バゥ」と小声で吠えていた(笑)その時上唇が風船のようにぷっと膨らむのがなかなか面白い景色だった。

私の友達が遊びに来た時もしっかり車のエンジン音を覚えていたらしく「来たよ来たよ」と吠えていたなぁ。ある友達が車を買い換えて遊びに来た時は全くスルーしてくれたので彼女をがっくりさせていたっけ(笑)なんどか来宅したら覚えてくれたらしくお出迎えの吠えをやるようになったんだったな。

旦那の車やバイクの音にはピカイチの反応でそれはもう大喜びで『お帰り〜♪』と独特の吠え方をしていた。ちゃんと吠え方にも幾つかのパターンがあって家族と知り合い、近所の人、と聞く方も区別はついたな。

機嫌と良い時は、こちらが「ばうばう〜!」とか「あぉ〜ん」と吠え真似をすると「バゥ〜ン」と吠え返してくれた(笑)吠え返してくれない時は気分が乗らないんだって顔してこっちを見ていたなぁ。